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2016年2月19日金曜日

ペッパーの問題

会社で事業領域で適用可能性の検証のために、pepper for biz 1台を導入しました。
そして自分はpepperの運用担当者になった。
導入から3週間、最初の興奮からだんだん落ち着いて、素晴らしい製品と思いつつもかなり重大な問題もちょこちょこ出てきている。
■しゃべれないペッパー
最初の数日、会社の人は興味津々、毎日pepper君を通る時に、暖かくて
「ペッパー君、こんにちは!」
「どこから来たの?」
「一緒に遊ぼう?」と話しかける。
ところが・・・
問いかけは素晴らしいのに、肝心のペッパーが反応できない。TVや雑誌で紹介されるペッパーを知っている人は、こんな答えを期待するだろう。
「こんにちは、おじーちゃん!」(ペッパーは顔認識ができる)
「ボクは、ロボット工場から来たんだよ!」
「オッケー、いっしょに遊ぼう!ボクは歌って踊れるし、ゲームもできるんだ。何して遊ぶ?」
ところが、現在のペッパーは、こんなカンタンな会話もできない。
すべての質問を想定して、あらかじめ組み込んでおけば可能だが、現実的にはムリ。
じゃあ、人工知能を使ったら?
残念ながら、ペッパーには人工知能は搭載されていない。そもそも、世間話ができる人工知能なんて存在しないのだが。
ところが、それ以前に、ペッパーには重大な問題がある。
ペッパーの頭部を凝視していると、時々、耳が青く光る。
実は、耳が青く光る時しか、ペッパーは話を聞いてくれないのだ。
ペッパーは何か処理を始めると、それで頭がいっぱいになり、聞く耳を持たない。
つまり、ペッパーは会話と他の処理を同時にできないのだ。
これでは、世間話はムリ。
世間話のキモは、テンポの良さと軽快さにあるのだから。
それが、耳が青く光っているときだけ話しかけてね~・・・ではねぇ。
さらに、仮に音声を取り込めたとしても、
今のペッパーは、言葉の意味も文脈も理解できない。
当然、答えを返すこともできない。
でも、TVで、ペッパーはペラペラしゃべっているけど?
質問と答えをあらかじめ仕込んであるだけ。
考えてしゃべっているわけではない。
早い話、会話のデータベースなのだ。
だから、ペッパーを購入したら、すぐに音声会話でができると思ったら、大間違い。

■二つのペッパー
まず、ペッパーには2つのタイプがある。一般向け(家庭向け)と法人向けだ。
一般向けは、クラウドAIがサポートされ、カンタンな会話機能がついている
ただし、ここでいうAIは本格的な「人工知能」ではない
クラウドAIなどで人間のジェスチャーや顔の表情、声のトーンなどを分析できる。

一方、法人向けは、クラウドAIもカンタン会話機能もなし
かわりに、セリフを入力するだけで会話や動作が成立するテンプレートがついている。
つまり、法人向けは、用途にあわせて一から作り込んでください、というわけだ(プログラムではなくテンプレートで)。

早い話・・・
ペッパーは買っても、すぐに使えない。アプリやデータを組み込む必要があるのだ。
あたりまえ?
ところが、現実は・・・
TVや展示会でペッパーを見ると、話したり、愛嬌をふりまいたり、表情を読んだり・・・こりゃあ、使える!
そこで、ペッパーを購入するのだが・・・そのままでは何もできない。何をするにも、アプリやデータが必要なのだ。
2016年2月現在のペッパーは「でくのぼう」と言っていいだろう。
一応、自走可能で、頭も手も腰も動くが、力仕事ができるわけではない。
アタマで勝負であるべきが、ところが、まともな会話もできない。
それは、ソフトバンクは百も承知。会話機能を劇的に向上させようとしているのだ。
具体的には・・・ペッパーにIBMのワトソンをつなぐ!
■ペッパー&ワトソン
IBMの「ワトソン」は、米国クイズ番組「ジェパディ!」で人間のチャンピオンをやぶった質問応答システムだ。構造化されたデータはもちろん、非構造化データ(生のテキスト)からも学習する。さらに、高度な推論機能を備え、正解を知らなくても、推論で答えることができる。
現在、ワトソンは、医療、医薬品開発、法務、会計・税理、コールセンター、銀行業務、とあらゆる分野に進出しつつある。ただし、厳密にはワトソンは人工知能とはいえない。事実、IBMはワトソンを「コグニティブ・コンピュータ」とよんでいる。
コグニティブとは「認知」の意味で、膨大なデータ(ビッグデータ)から、ルールと知識を抽出する。ここでいうルールとは「相関関係」で、人間が見落とすような「相関関係」も気づくことができる。たとえば、ビール買う人はオムツも買う傾向が強いとか。
つまり、コグニティブ・コンピュータは、「機械学習」と「気づく」がセットになった新しい問題解決システムなのだ。
ただし、コグニティブ・アーキテクチュアは、新しいものではない。概念や試作レベルのものはすでに存在した。IBM「ワトソン」が凄いのは、実用レベルに達したこと、普遍的な「認知」であること(様々の分野に転用可能)。
では、なぜ、コグニティブ・コンピュータは人工知能と言えないのか?
初歩的な知能の条件「言葉と概念のリンク」もできないから。
たとえば、「人型ロボット」という言葉をコンピュータに教えるとしよう。
属性は「機械」で、人間の「頭」、「胴体」、「手」、「足」を継承する・・・ところが、どれだけ教え込んでも、「記号」が積み上がるだけ。ロボットの「概念」を獲得したわけではない。
ロボットの概念?
「あいつは奥さんに頭が上がらないんだ。まるで『ロボット』だね」
人間ならピンとくるが、コンピュータにはサッパリ。ロボットという「言葉=記号」は知っているが、ロボットの「概念」を理解していないから。この場合、「人の言いなりになる」がイメージできないのである。
じつは、このような概念をコンピュータに理解させるのは難しい。明示的にルールとして与えられないから。
具体的に考えてみよう。
「人の言いなりになる」をすべてルールで記述できる?
ムリ。
ルールが定まらないと、プログラムを書くこともできない。人工知能の難しさはここにある。
ところが、人間には造作もないことだ。さらに、人間の脳は、発明・発見・創作までやってのける。これでは、人間なみの人工知能なんて100年はムリ?
ただし、個人的には、コグニティブ・コンピュータは「破壊的イノベーション(Disruptive innovation)」だと思っている。期待半分、脅威半分で。
前者は、人類文明が直面する複雑化の問題を解決してくれるだろう。
後者は、今後10~20年で、人間の仕事の半分を奪うだろう。専門性の低い単純作業だけではない。ルール化できる定型業務なら、知的業務も対象になる。具体的には、医療、法務、会計・税理、コールセンター・・・人間に残された仕事は、セラピスト、キャバ嬢?
そして、この分野でダントツがIBMのワトソンなのだ。ただし、やり方はやぼったい(洗練されていない)。古典的なルールベース、機械学習、最新のディープラーニングとあらゆる手法を取り込んでいる。まるでAI部品の総合商社だ。

2015年12月現在、ソフトバンクはワトソンの日本語化をすすめている。日本語版ワトソンをペッパーにつなごうとしているのだ。そうなれば、ペッパーは日本語ペラペラ、会話はお手のもの?
ノー!
今のペッパーではムリ。

アプリ開発業者が非力だからではない。ペッパー・システムに根本的な問題があるのだ。


■ペッパーの問題点
まず、ペッパーは、手は動くが、何かをつかんだり、持ち上げたりすることができない。つまり、力仕事はムリ。であれば、「知」の部分で価値を生むしかない。

そこで、感情認識ロボットをうたったのはいいが、会話能力が欠落している。人の顔色をみて、あなた怒っていますよね、で話が終わっては、何の意味もない。話をどんどんつなげて、盛り上がって、初めて「感情認識」と言えるのだから。

というわけで、ペッパーには「人工知能型」会話機能が欠かせない。

「人工知能型」の会話?

質問と答えをあらかじめ用意したデータベース型会話ではないという意味(現在のペッパーのコレ)。

ところが、ペッパーには、もっと重大な問題がある。

ペッパーは、耳が青く光っているときしか、人の話を聞き取れない。マルチタスクに対応していないのだ。

マルチタスク?

複数の仕事(タスク)を同時に処理すること。

たとえば、パソコンで何か処理中に、マウスやキーボードから入力を受けつけなかったら?

不便ですよね!

何をしていようが、入力だけは受け付けてもらわないと・・・ハタ目にはフリーズと同じだから。

とはいえ、マルチタスクはCPUに大きな負荷がかかる。
ペッパーはマルチタスクではない。何か作業を始めたら、それが終わるまで、他の作業は一切できないのだ。


もちろん、ペッパーをワトソンをつなげば、ややこしい会話処理はワトソンでやらせればいい。ペッパーが聞き取った質問を、WiFi経由でワトソンのサーバーに投げ、ワトソンが回答をつくり、それをペッパー返す。

それなら、ペッパーのCPUは非力でもいいのでは?

とんでもない!
マルチタスクを実現するには、CPUのスペックは高ければ高いほどいい。大は小を兼ねる的なぬるい話ではなく、馬力がないと気の利いたことは何もできないのだ。


第二に、ソフトの問題。

ペッパーには、プログラムを書かなくてもアプリが作れるカンタンツールがある。
グラフィカルなユーザーインターフェイスで、処理の流れを順番に記述するだけ。

ところが・・・

「処理を順番に記述する」方法で、マルチタスクを実現しようとすると、たちまちカオスに・・・それなら、はじめから「プログラミングを書く」に割り切った方がいい。
つまり、ペッパーは、プログラムを書かなくてもアプリが作れるようにした結果、マルチタスクが困難になり、ペッパーの機能が制限されているのだ。

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